通訳をしているときに、英語でも日本語でも言葉をそのまま訳しただけでは意図が伝わらない慣用句的表現が出てくることがよくあります。

言葉の単純変換ではなく、意味を伝えるのが通訳ですので、表面上の言葉に惑わされないようにしなければいけません。

でも、以前も書きましたが、「ふんどしの紐を締める」を単に意味を捉えて「気合を入れる」と訳すのでなく、私個人的には、慣用句が使われた時には、英語で同じような意味を持つ慣用句、同じような場面で使われる慣用句を使うようにしたいと思っています。(もちろん逆の英語から日本語の通訳の場合もです)

 

今回は、その一つの例である「振り出しに戻る」です。

「最初からやり直す」という意味で考えると英語での表現はたくさんありますが、今回は英語の慣用句を2つ紹介します。

go/be back to square one

go/be back to the drawing board

意味:振り出しに戻る、最初からやり直す

 

back to square one は以前に紹介したことがあるので例文はこちらを見てください。

 

今回は「back to the drawing board」の使用例を紹介します。

 

使用例は「レバレッジ~詐欺師たちの流儀」からです。

アメリカ犯罪史に残る「D.Bクーパー」事件を追っていた父親が病気で余命わずかとなったFBI捜査官のトッド。パーカーたちを潜入捜査官と信じている気のいいトッドから相談を受け、レバレッジチームは事件解決のため乗り出します。

ネイトが、DNA検査の結果をハーディソンに尋ねると、あまりに多くの人のDNAが見つかったため何の役にも立たないことがわかります。

Hardison: So, back to square one?(ってことは振り出しに戻ったってこと?)

Nate: I prefer back to the drawing board. It’s more hopeful.(振り出しに戻るほうがいい。そのほうが希望が持てる)

この会話では、最初に紹介した2つのフレーズが両方出てきます。「最初からやり直しになる」という意味は同じですが、語源が異なります。

back to square oneは1930年代のフットボールのラジオ解説に由来するそうです。

ラジオだと選手がピッチのどの位置にいるのか表現しにくく、視聴者も試合の様子をイメージしにくいため、フットボールのピッチを数字のグリッドに分割して、解説者は、その数字を使って選手やボールの位置を伝え、解説していました。

スクエア1(一つ目のマス)はホームチームのゴール前、ピッチの上のほうに行くにつれて数字が大きくなるという仕組みで、ホームチームのゴールキックがあると、試合がスクエア1に戻ったように表現されていたことに由来するそうです。

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back to the drawing board は、米国の漫画家ピーター・アーノが1941年3月1日付の『ニューヨーカー』誌に掲載した漫画に由来するそうです。漫画のでは墜落したばかりの飛行機とその背後にパイロットがパラシュートで降りてくる様子が描かれています。

驚いて立ちすくむ人、駆け寄る人がいる一方で、丸めた設計図を小脇に抱えた飛行機設計者が「さて、白紙から(設計を)やり直すか」と言いながら立ち去るところが描かれていて、そこからうまくいかなかった時に真っ新な状態(この場合は、設計図を白紙に戻してやりなおし)に戻ってやり直すときにこのフレーズが使われるようになったそうです。面白いですね。